UNIQUE VENUES OF JAPAN 2023 イベントレポート

大阪城パークマネジメント株式会社とバリューマネジメント株式会社は2023年12月4日、大阪城西の丸庭園 大阪迎賓館でユニークベニュー活用促進フォーラム「UNIQUE VENUES OF JAPAN 2023」を共同開催しました。

 

MICE業界の新コミュニティ「UNIQUE VENUES OF JAPAN」のキックオフとなる本フォーラムは、大阪城の重要文化財「乾櫓」と茶室「豊松庵」でのユニークベニュー体験に始まり、観光・MICE業界の第一人者3名によるパネルディスカッションを開催。2025年 大阪・関西万博という好機を活かすべきMICE業界の可能性と課題、未来像をレポートします。

 

<目次>

1.西の丸庭園でのユニークベニュー体験レポート
1-1.乾櫓(いぬいやぐら)特別見学ツアー
1-2.豊松庵(ほうしょうあん)呈茶体験

 

2.パネルディスカッションレポート
2-1.乾櫓の特別見学ツアーと豊松庵の呈茶体験について
2-2.各組織の取り組みと課題について
2-3.大阪城や大阪におけるユニークベニュー活用の可能性
2-4.2025年 大阪・関西万博に向けて

 

 

1.西の丸庭園でのユニークベニュー体験レポート

 

*乾櫓(いぬいやぐら)は一般非公開のため、写真掲載を控えさせていただきます

 


大阪城の西北に位置する乾櫓は元和6年(1620年)、徳川2代将軍秀忠公によって再築され、2度の戦火を耐えて奇跡的に残った重要文化財です。一般非公開のユニークベニューを、大阪城天守閣・宮本館長のご案内で見学させていただきました。

 

乾櫓はお堀の外から見ると四角形ですが、西の丸庭園側から見ると横に長いL字型の構造で窓が1つもありません。ところが櫓の中へ入るとわずかな照明しかないのに明るい。お堀に面してL字型に採光窓が連なり視界が開けているのです。南に追手門方面、正面に城下町、北東に京都へ続く京橋方面まで見渡せる乾櫓は、徳川将軍と大坂町人とのコミュニケーションの場でもあったそう。ある日、3代将軍家光公が乾櫓の窓から金色の采配をスッと差し出すと、お堀の外に集まっていた町人たちがワッと歓声を上げました。「税を免除する」の合図でした。大坂での人心掌握に苦労していた家光公、町人たちの喜ぶ姿を乾櫓から見てホッと胸を撫でおろしたことでしょう。

 

この乾櫓から姿を見せた将軍がもう一人、14代家茂公です。幕府の権威回復のため大阪城に入り、長州征伐の前線指揮をとっていた最中21歳で病死します。若き将軍の無念を思いながら高層ビルが立ち並ぶ大阪の街を眺めていると、平和のありがたさが込み上げてきました。

 

3代将軍と14代将軍、2人の徳川将軍のストーリーが残るユニークベニュー、乾櫓は令和6年(2024年)5月、9年ぶりとなる特別公開が予定されています。

 

 


豊松庵は昭和44年(1969年)、松下幸之助氏が大阪市へ寄進した檜皮葺数寄屋造りの茶室で、天井に竹、柱に丸太など異素材を組み合わせる伝統的な茶室建築工法が用いられています。畳敷きの広間と炉を切った小間のほかに椅子を使える立礼席があり、正座の習慣がない訪日客にも気軽に呈茶を体験していただけそうです。

 

「一服、差し上げます」と亭主が挨拶をしてお茶をたて始めると、茶せんの静やかな音によって茶室内に静寂が満ちてゆき、亭主の発する言葉の一つひとつが胸に響いてきました。茶の湯を愛したと伝わる豊臣秀吉公もこうして、盟友・千利休の言葉と自身の思いに向き合っていたのかもしれません。

 

この日の茶菓子は大徳寺納豆を忍ばせた和三盆の落雁。味噌のようなわずかな塩味が和三盆の強めの甘みによく合う小粒のお菓子でした。立食パーティー前の私たちにとってちょうど良い塩梅のおもてなしを受け、茶の湯という伝統文化の奥深さに感動しました。

 

一服いただいて茶室の外に目を移すと、冬の澄んだ夜空にライトアップされた天守閣がくっきりと浮かんでいました。豊松庵は「大阪城天守閣がいちばん綺麗に見える場所」としても知られています。

 

 

2.パネルディスカッションレポート

 

パネルディスカッションはバリューマネジメント株式会社代表・他力野 淳をモデレーターとし、日本政府観光局MICEプロモーション部部長・川﨑 悦子氏、観光庁観光地域振興部部長・中村 広樹氏、公益財団法人大阪観光局理事長・溝畑 宏氏が登壇。

 

観光立国を目指す日本におけるユニークベニュー活用促進と、大阪におけるユニークベニュー活用の可能性と課題、そして開幕まで500日を切った2025年 大阪・関西万博に向けてをテーマに熱く語り合いました。

 


単なる観光以上の価値ある体験

最初に乾櫓と豊松庵での体験について、川﨑氏が「今日は何百年も時代を遡って歴史を感じることができた」と振り返りました。今、自分がいる場所で、当時の武将が仕事をしていた様子やお茶を嗜みながら歓談した様子を想像し、頭の中にイメージが広がったと特別な体験を語りました。

 

大阪城を何度も訪れているという中村氏も貴重な体験ができたと称賛。「400年残っていたという乾櫓に初めて入って、ここで徳川3代将軍と幕末の将軍がどんなふうに仕事をしていたのか、そういったストーリーを聞きながら見学することによって価値が一段と上がりました」(中村氏)

 

乾櫓のような重要文化財は大阪に多数残っています。これらのユニークベニューはただ“見る”だけでなく、その背後にあるストーリーや歴史を知り“体験する”ことによって、参加者が大阪の魅力をより深く感じる価値ある体験になるのでは、という意見交換が行われました。

 

 


体験自体をストーリー化するユニークベニューの重要性

続いて、観光・MICE業界の課題について多様な意見が交わされました。Jリーグ運営など多彩な実績をもつ溝畑氏はラグジュアリー対策の重要性を強調。現状の観光業界の問題点を挙げ、解決策として高付加価値サービスやユニークベニュー体験の提供、それを可能とする文化からエンターテイメントまで様々な分野に精通した人材育成の必要性を示しました。

 

「観光業界には今、大きなチャンスが来ています。ユニークベニューの活用も各施設が積極的にやっていただきたい」との溝畑氏の発言を受けて、訪日MICE誘致に長年携わる川﨑氏は「ユニークベニューを訪れる体験だけでなく、そのストーリーに参加者を巻き込むことで付加価値を高めることができる」と示唆しました。例えばヨーロッパの中世の古城では、宮廷衣装を身につけた楽団が音楽を奏で、レッドカーペットを敷いて参加者を出迎えます。このように施設やプログラムの提供だけではなく、自分が特別な体験の一部になっていると感じられる演出やストーリー性が強みとなるのです。

 

 

ユニークベニューを活用した地方誘客とまちづくり

ユニークベニューを活用した地方誘客についても議論されました。「インバウンドは東京・大阪・京都に7割以上が集中していますが、地方の古民家や歴史的建造物といったユニークベニューを高単価の宿として活用することで地域経済にも貢献できます。一方、古民家の活用には消防法などの課題が多いので、我々のほうで専門家による支援や対応を行っています」(中村氏)

 

川﨑氏も「観光大国であるシンガポールと比較したときの日本の強み、それは“多様性”です。地域ごとに長い歴史のなかで培ってきた独自の文化や伝統、食文化があります」と指摘し、お城などのユニークベニューや地域の魅力を伝えるべく情報発信を推進したいと語りました。地元のお城をなぜ観光に活用するのかを地域の方々に理解していただくことは真のまちづくりにつながっていきます。ユニークベニュー活用には地域理解の促進が必要との認識を共有しました。

 

訪日客の地方誘致にとって大阪は重要な拠点の1つです。そこで次のディスカッションでは「大阪におけるユニークベニュー活用の可能性」をテーマに、登壇者の方々の思いを伺いました。

 

 


ユニークベニュー活用実績の横展開とインフラ整備

川﨑氏は、大阪観光局のユニークベニュー活用実績を振り返って今後の展開に期待を寄せ、行政手続きや運営ノウハウも分析して事業者間で横展開することが重要だと強調しました。また、大阪城にエレベーターが完備されているメリットに触れ、インフラ整備にも言及。「国際会議やMICEには様々な方がいらっしゃるので、どんな方も公平に平等に参加できるようにインクルーシブな、誰も取りこぼさないインフラ整備は強みとなります。」(川﨑氏)

 

 

多様な施設とコンテンツ・ストーリーの掛け算

中村氏は、大阪城や美術館・博物館が都市価値を高めるという視点からユニークベニューの重要性を強調。政府の2023年度補正予算で『特別な体験の提供等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業』が採択されたことを公表し、より高付加価値なユニークベニューの活用に期待を寄せました。

 

溝畑氏も、住吉大社、四天王寺、能楽堂、美術館、博物館、水族館といった大阪のユニークベニューのポテンシャルに触れ、富裕層向けJリーグ観戦プログラムの成功経験を共有。このような施設とコンテンツ、ストーリーと顧客ニーズの掛け算が重要であるとし、文化・芸術・エンターテインメントを時間的ニーズに合わせて提供する例として、早朝クルーズや美術館の開館時間延長といったプログラムを提案しました。

 

 

持続可能な観光とオーバーツーリズム問題

一方で、オーバーツーリズム問題についても議論が行われました。溝畑氏は人手不足や環境問題などインバウンドの過度な拡大に伴う懸念を示し、「SDGsの課題を前にして必要なのは、インバウンドの量と質を見極めるバランス感覚と高付加価値化。これは行政・民間・地域が協力してやっていくべきだ」と訴えました。「オーバーツーリズム対策として、ユニークベニューの高付加価値化は無限大の可能性を持っています。世界のユニークベニュー活用例をよく研究して『よし、うちはこんなことをやっていこう』と行政・民間・地域のそれぞれが真剣に考える機会、それが万博です」(溝畑氏)

 

 


万博を機に訪日客のリピートを増やす

開幕まで500日を切った2025年 大阪・関西万博。いよいよ2024年は、万博に伴うMICEやインセンティブツアーによる訪日客増が見込まれます。川﨑氏は万博を単なるイベントではなく1つのオポチュニティとして捉えていると語り、関西を起点とした地方誘客の考えを示しました。中村氏もインバウンド消費の向上推進事業に触れ、「日本に対する認知が低かった世界の人びとがユニークベニューの魅力や高付加価値を体験すれば『今度は家族や友人を連れて日本に行こう』と思っていただけるはずだ」と力を込めました。

 

 

ワンストップ窓口の設置と情報発信が急務

日本が新たなデスティネーションとして世界から選ばれるためには、ワンストップ窓口を通じたコーディネーションが求められます。「海外の担当者があちこちに問い合わせるのではなく、希望の場所・目的・人数・予算などを1つの窓口が受け止めて必要なところに展開したり、地域のプログラムをコーディネートしたりといった総合的な窓口が必要です」(川﨑氏)

 

同時進行的に、世界へ向けた情報発信も急務です。日本にはどんなユニークベニューがあって、どんな高付加価値プログラムを体験できるのかをイメージしやすいように、わかりやすく情報発信していく仕組みが今後ますます必要になってきます。

 

 

2030年のビジョンに一人ひとりがコミットする

最後に溝畑氏は、万博を日本の将来を見据えた起爆剤と位置付け、2030年のビジョンとして「日本全体のGDPの1割を観光で占める」との共通目標を提示し、観光・MICE業界の一人ひとりが主体的にコミットする重要性を訴えました。課題として、万博を機に日本の魅力をフルパワーで発信すること、全ての都市でSDGsの意識を高めること、日本の伝統文化や価値観を世界に問うことなどを提案。「万博は平和の祭典。世界平和の風を日本から吹かせていきたい」と締めくくりました。

 

写真左より、パネルディスカッション登壇者の中村氏、川﨑氏、溝畑氏、他力野

 

(総評)

2024年は観光・MICE業界にとって重要な年になります。万博を機に日本を訪れる世界中の人びとに、ユニークベニューを通じてわが国の伝統文化の魅力と価値を示し、観光立国として大きく飛躍するチャンスの年です。その気運をここ大阪から日本全国に波及させるべく、地域間の連携強化アクションプランの策定を急がねばなりません。

 

「UNIQUE VENUES OF JAPAN」では、今後も多彩なイベントを開催して観光・MICE 業界のネットワークを構築し、全国各地のユニークベニュー活用を促進してまいります。

 


 

<イベント概要>

開催日:2023年12月4日(月)

場 所:大阪城西の丸庭園(乾櫓、豊松庵、大阪迎賓館)

 

共 催:大阪城パークマネジメント株式会社

    バリューマネジメント株式会社

 

<プログラム>

16:00〜16:15 受付

16:15〜17:15 一般非公開<乾櫓>特別見学ツアー、<豊松庵>呈茶体験

17:30〜18:30 パネルディスカッション

18:40〜20:30 交流会(立食パーティ)

 

<登壇者> ※五十音順

日本政府観光局MICEプロモーション部 部長 川﨑 悦子氏 

観光庁観光地域振興部      部長 中村 広樹氏 

公益財団法人大阪観光局 理事長 溝畑 宏氏 

バリューマネジメント株式会社  代表 他力野 淳(モデレーター)

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